私たちは毎日、何度キーボードとマウスの間を往復しているか。
その回数は数千回に及ぶとも言われる。右手を伸ばし、マウスを握り、カーソルを合わせ、またホームポジションに戻す。この「コンマ数秒」の積み重ねが、思考のフローを断ち切り、肩に目に見えない疲労を蓄積させている。
「ホームポジションから一歩も動きたくない」
そんな人類の(少なくとも私の)悲願を叶えるデバイスが、ついに完成形へと到達した。PFUの『HHKB Studio』。これは単なる入力機器ではない。クリエイターのための「コックピット」だ。4万4000円という価格に躊躇する気持ちは痛いほどわかる。だが、この黒い塊がもたらす「没入感」を知ってしまえば、もう後戻りはできない。私のデスクワークを変えた、この相棒について語らせてほしい。

マウスへの「移動」が、思考のノイズになる
記事を書いている最中、あるいはコードを書いている最中、ふと調べ物をするためにマウスに手を伸ばす。その瞬間、脳のCPUが「執筆モード」から「操作モード」へと切り替わる。この微細なコンテキストスイッチが、どれほど生産性を削いでいるか。
特に私は、思考のスピードと入力のスピードが同期した「ゾーン(フロー状態)」に入ったときの快感を何よりも大切にしている。そのゾーンを維持するには、指先以外の身体動作を極限まで削ぎ落とさなければならない。従来のHHKBは「打鍵感」においては頂点だった。しかし、「操作」においてはマウスへの依存を断ち切れなかった。
そこに現れたのが、ThinkPadの赤ポチを彷彿とさせる「ポインティングスティック」を搭載したHHKB Studioだ。
「書く」と「操る」が融合する体験
HHKB Studioの最大の武器は、キーボードのど真ん中、G、H、Bキーの間に鎮座するポインティングスティックだ。ホームポジションに手を置いたまま、人差し指でカーソルを自在に操る。この感覚は、まるで脳と画面が直結したかのような錯覚を覚える。
- 指先でカーソルを弾く
スティックの感度は極めて良好。微細な操作も、画面端への移動もストレスがない。 - ジェスチャーパッドの魔法
本体の側面と手前にはタッチセンサー(ジェスチャーパッド)が搭載されている。ここを撫でるだけでスクロールやボリューム調整が可能。マウスホイールすら不要になった。 - 静音リニアスイッチの採用
従来の静電容量無接点方式ではなく、今回はメカニカル(リニア)スイッチを採用している。「スコスコ」というよりは「トコトコ」という心地よい打鍵音。静粛性は高く、カフェや夜間の作業でも気兼ねなく使える。
ガジェットYouTuberとして絶大な信頼を集めるトバログ氏も、その「完成度」と「新しい体験」について詳細なレビュー動画を公開している。彼が語るように、これは単なるキーボードの進化ではなく、入力デバイスの再定義だ。
4万4000円は「高い」のか?
正直に言おう。キーボードに4万円オーバーは狂気の沙汰だ。しかし、冷静に計算してみてほしい。我々ナレッジワーカーは、1日の大半をキーボードの上で過ごす。仮に3年間、毎日使うとしよう。44,000円 ÷ (365日 × 3年) = 1日あたり約40円。
コンビニのコーヒー1杯よりも安い投資で、毎日の「書く」という行為が、ストレスから快楽へと変わる。肩こりや腱鞘炎のリスクを減らし、生産性を最大化するツールに投資することは、最も理にかなった「自己投資」だ。
特にこの「墨」モデルの美しさは特筆に値する。刻印すら目立たない漆黒のボディは、デスク上のノイズを消し去り、モニターの中の世界だけに集中させてくれる。
デスクの「景色」を変える覚悟
HHKB Studioを導入することは、デスクの「景色」を変えることだ。巨大なマウスパッドも、場所を取るマウスも、もういらない。デスクの上には、この美しい黒い板が一つあればいい。
ミニマリストが目指す「何もないデスク」を実現するための最後のピース。それがこのキーボードだ。もしあなたが、今の作業環境に少しでも「ノイズ」を感じているなら、この投資は決して裏切らない。
本日のまとめ
HHKB Studioは、すべての「書く人」に捧げる、究極の没入ツールだ。
- ホームポジション完結の衝撃
マウスへの持ち替え時間をゼロにするポインティングスティックが、思考のフローを維持し続ける。 - 静寂と快感の打鍵感
新しいメカニカルリニアスイッチは、長時間打っても疲れない軽やかさと、周囲を邪魔しない静音性を両立している。 - 所有欲を満たす「墨」の美学
視覚的なノイズを排除したデザインは、デスクを洗練された書斎へと変える。

